「着物の古いシミも自分で処理できたら良いのに…」と思っている人は多いのではないでしょうか?しかし古いシミは自宅での染み抜き処理が難しいと言われており、ネットでも方法を案内しているところはほぼありません。

今回はなぜ着物の古いシミは自分で処理するのが難しいのかという理由と、着物の古い染み抜きを自宅で行う方法、またその際の注意点等について解説をしていきます。

着物がダメになる?古いシミを自分でケアしにくい理由

着物の古いシミはなぜ、付いたばかりのシミと違って自分で処理がしにくいのでしょうか。着物の古いシミを自宅で染み抜きする前に、まずはその点を知っておきましょう。

繊維に強く色素が付着している

着物の「シミ」とは、汚れや色素が繊維に付着している(くっついている)状態です。新しいシミなら、汚れ・色素と繊維のくっつき方が弱いので、比較的カンタンに汚れを繊維から取り除けます。そのため自分での染み抜きもできるのです。

ところが時間が経つほど汚れ・色素は繊維に強くくっついて、離れにくくなっていきます。すると一般的な洗剤や溶剤では、シミが取り除けないことに。さらに強い溶剤を使ったり、専用の漂白剤の使用が必要となるケースが多くなります。

生地が変色している可能性がある

漂白剤の使用が必須となるケースが、着物の古いシミが変色している場合です。汚れの成分が酸化すると、シミは徐々に濃い色へと色が変化していきます。

酸化して変色したシミは、溶剤や洗剤で汚れを取るだけでは元の状態には戻せません。漂白剤を使って、少しずつ変色したシミを取っていく作業が必要になります。

デリケートな着物を漂白するには、ていねいで細かな手作業と使用する漂白剤に対する高い専門知識が必要とされます。その難しさは、クリーニング店でも「着物の漂白は受付不可」という店が多いほどなのです。

着物の古いシミを自分で染み抜きする場合も、この「漂白」の工程で失敗をしてしまう人がほとんどとなっています。

「染色補正」が必要かも?

着物の古いシミの状態が酷い場合、着物の染料も酸化で破壊されていて、着物の地色や柄の部分まで変色を起こしていることがあります。例えば喪服着物が薄いグレーに色抜けしたり、紺色の着物が薄ピンクになる…といった具合です。

またデリケートな着物に漂白剤を使うと、シミの色が取れたのは良いものの、着物の地色も一緒に剥げてしまうことも。このような場合、専門店では「色掛け(いろかけ)」という作業を行います。

色掛けとは染料をその部分にかけ直して、着物の色味を元に近づける染色補正の作業です。しかし着物の古い染み抜きを自宅で行う場合、このような染色補正は行なえません。シミは取れたけれど色が剥げたまま…となる可能性も高いのです。

着物がダメになる可能性が高い!

着物の古いシミをキレイにするには、上でご紹介したように強い溶剤や漂白剤の使用が必要です。そのため自宅での着物の古い染み抜き作業に失敗した場合、着物を二度と着られない状態にしてしまう可能性が高くなります。

また古いシミが付いている着物の場合、そもそも着物の生地自体が経年劣化で弱くなっている可能性も。この場合、色が抜けるより早く生地が破けてしまう可能性もあります。

着物の古い染み抜きを自宅で行う方法

着物の古いシミを自分で処理するのは、上記でご紹介したようにかなりリスクが高い方法と言えます。でも中には、リスクをわかった上でも着物の古い染み抜きにチャレンジしてみたいという人も居ることでしょう。

「万一着物がダメになってもOK!」という人向けに、自己責任で行う染み抜き方法をご紹介します。

1.ベンジンで汚れを落とす

着物の古いシミを自分で取る場合、まずは石油溶剤であるベンジン(揮発油)で着物に残っている汚れを落とします。

用意するもの

・ベンジン(染み抜き用のもの)
・サラシもしくは白いタオル(2~3枚)
・汚れても良いバスタオル
・着物用ハンガー
・作業用手袋
・マスク

染み抜きの手順

1)バスタオルを敷いて、その上に着物を広げます。
2)サラシにベンジンを少量染み込ませます。
3)シミのある部分を、2)のサラシで軽くトントンと叩き、ベンジンを含ませます。
4)汚れが浮いてきたらサラシの位置を動かし、常にキレイな面が着物と接触するようにします。
5)シミが目立たなくなったら、新しいサラシにベンジンを含ませます。
6)ベンジンで濡れた部分と乾いている部分の境目がよくわからなくなるように、5)のサラシでポンポンと叩いてなじませ、ボカシをかけます。
7)着物ハンガーにかけて1日程度陰干しし、ベンジンの成分を揮発させます。

※ベンジンは揮発性が高いため、使用中はかならず換気をしましょう。
※ベンジンは引火性が高いガソリンのような液体です。使用中にはマッチ・ライター・ストーブ・コンロ等の火器類を一切使ってはいけません。
※着物の染料や素材によっては、色落ちが色ハゲが起こる可能性があります。必ず事前に目立たない箇所でテストをしておきましょう。
※ボカシを入れておかないと輪染みになりますので、ていねいにボカシましょう。

2.酸素系漂白剤で漂白する

汚れ落としが済んだら、酸素系漂白剤を使って残ったシミを抜きます。

用意するもの

・酸素系漂白剤(液体タイプ)
・重曹
・カップ等の容器
・古い歯ブラシ
・スチームアイロン
・中性洗剤(液体タイプ)
・汚れても良いバスタオル

染み抜きの手順

1)バスタオルを敷いておき、シミのある着物を広げます。
2)スチームアイロンを準備しておきます。
3)カップに重曹をティースプーン1杯程度入れて、酸素系漂白剤をその2倍の量で入れ、よく混ぜておきます。
4)混ぜた漂白剤を歯ブラシを使ってシミのある部分に載せて、軽くトントンと叩きます。5)スチームアイロンで蒸気をあてて温度を上げます。
6)シミが取れたら中性洗剤を使って全体を手洗い(仕上げ洗い)します。

※古いシミの染み抜きを始める前に、必ず裏側等の目立たない箇所で変色・色落ちが起きないかどうかのテストをしましょう。
※歯ブラシで強く生地をこすらないでください。毛羽立ち・色ハゲの原因になります。

着物の古いシミを自分で染み抜きする時の注意点

着物の古いシミの染み抜きを自宅で行う方法は上でご紹介したとおりです。しかし着物の種類やシミの状態によっては、上記の方法が一切できない場合もありますので注意しましょう。

水洗いできない着物は染み抜きNG!

今回紹介した着物の古いシミを自分で取る方法では、最後の仕上げ洗い(水洗い)の工程が必要です。正絹(シルク)やウール素材等は水を吸うと激しく縮んでしまうことがあるため、紹介した方法での染み抜きができません。

シミの原因はわかっていますか?

シミの原因がまったくわからず、黄ばんだシミや茶色いシミができている…これは汗や皮脂の成分の変化によって起こる「黄変」という変色の現象です。

黄変シミについては、残念ながら自宅での染み抜きではほぼ効果が得られません。「黄変抜き」ができる専門店を頼ることをおすすめします。

かび臭くありませんか?

古いシミがある着物からカビのニオイがする場合、シミの原因が「カビ」である可能性も考えられます。カビ菌は自宅では殺菌できないので、専門店で「カビ取り」を依頼した方が良いです。

天然染色ではないですか?

藍染や草木染め等の天然染料を使った製品は、古いシミを自宅で染み抜きする際の漂白剤の使用で色落ち・変色を起こします。また一度色抜けが起きると、専門店でも色を元に戻せない可能性が高いと考えた方が無難です。

特殊加工はありませんか?

金糸・銀糸・金箔・銀箔加工がある箇所は漂白ができません。また刺繍(ししゅう)部分もムリに漂白をすると色落ちや形の歪みが起きる可能性が高いです。その他の特殊加工がある場合も、着物の古いシミ抜きを自分で行うのは止めましょう。

裏地や長襦袢は染み抜きできません

胴裏(裏地)や長襦袢は生地が薄く弱いため、強い漂白を行うと生地が破けやすくなります。専門店でも、裏地と長襦袢の古いシミの染み抜きはほとんど行っていません。

裏地のシミが気になる場合には、着物の古いシミの染み抜きを自分でするよりも、専門店に裏地の張替えを依頼した方が良い結果になる可能性が高いです。

おわりに

着物の古いシミを自分で処理する方法や注意点はいかがでしたか?着物の古いシミは、一般的なクリーニング店でも対処ができないことがあるほど「扱いの難しいシミ」のひとつです。

着物の古いシミを確実に取るならば、自宅で染み抜きをするよりも着物専門のクリーニング店、もしくは悉皆屋に依頼をした方が確実と言えます。事前に見積を出すお店がほとんどなので、まずは一度相談をしてみるのも手ですよ。