着物の衿汚れの落とし方として知られているのが「衿拭き」です。
気になる着物の衿汚れは落とし方のコツをつかめば、誰でも自宅で簡単に行うことができます。
ただし、たまにしか着ないフォーマル用の着物や、ひどい汚れや時間のたったシミには触らない方がよいこともあるため、まずは注意点をよく読んで「衿拭き」を行いましょう。

着物の衿汚れを落とす「衿拭き」とは

自宅でも出来る着物のお手入れに、「衿拭き」という方法があります。
名前の通り、衿だけを拭いて汚れを落とすことをいいます。

実は着物を着ていると、気がつかないうちに化粧品や皮脂、汗などが着物についてしまい、汚れていることがよくあります。中でも衿は、もっとも汚れやすい部分。

とはいえ、シーズン中は何度も着る予定の着物をその都度クリーニングに出していたら、費用も手間もかかってしまいますよね。

そこで、着物の着用後には「衿拭き」をして、衿元を常にキレイに保つことで、シーズン中はクリーニングに出さずに着用することができるというわけです。

「衿拭き」は皮脂や化粧品など油溶性の汚れに効果的

「衿拭き」とは、具体的にはどんなことをするのかというと、ベンジンという有機溶剤で、着物の衿部分についた油溶性の汚れを除去します。

そのため、皮脂汚れやファンデーションなどの化粧品の汚れには、効果を発揮してくれます。

ただし、いつ頃ついた何のシミか原因がわからないものや、広い範囲に広がっている汚れに「衿拭き」をすると、却って着物を傷める可能性があるので、やめたほうがよいでしょう。

フォーマル用の着物は「衿拭き」よりクリーニングへ

「衿拭き」は、近々また着る機会がある着物へのいわば応急処置。ワンシーズンに何度も着る、普段着やしゃれ着用の着物へのお手入れ方法といえます。

そのため、フォーマルシーンで着用する留袖や振袖、訪問着、喪服などの一度着たらしばらくは出番がなく、次にいつ着るのかわからない着物には不向きです。
フォーマル用の着物は着用後「衿拭き」をするよりも、出来るだけ早くクリーニングへ。丸洗い、汗抜き、染み抜きなどのお手入れをしてから、収納することが大切です。

普段着やしゃれ着も「衿拭き」をしたから大丈夫と、クリーニングに出さずにそのまま収納してしまうのはNG。カビやシミ、黄変の原因になるので、シーズンが終わって収納する時には、必ず事前にクリーニングへ出しましょう

「衿拭き」を行う手順と事前の注意ポイント

実際に「衿拭き」を行う場合、注意して欲しいポイントがいくつかあるので、必ずそれを守って作業を行いましょう。

注意ポイント

●作業場所は扉や窓を開けたり、換気扇を回して、常に換気した状態にしておくこと。密閉状態での作業は厳禁です。

●ベンジンは引火性なので、ストーブやライター、コンロなど火器類の使用はすべてNG。

●ベンジンの成分が目や喉を刺激することも。子どもやお年寄り、病気の方やペットなどが居るところでの作業は避けましょう。

●皮膚の弱い方はポリエステルの手袋などを使用して作業をしましょう。

●衿拭きする前に、少量のベンジンを着物の裏面などの目立たない部分につけて変色や色落ちが起きないかテストを行います。変色や色落ちが激しい場合、衿拭きは中止しましょう。

●ベンジンを乾かす場合にドライヤーの使用は厳禁。ドライヤーの熱が加わった送風口の埃が着物に飛ぶと、着物が燃える可能性があります。

用意するもの

染み抜き用のベンジン(薬局やドラッグストアで購入可能)
白のタオル(糊を落としてやわらかくしたもの)
衣装敷
ポリエステルの手袋(ゴム手袋は溶ける可能性があるのでNG)
着物ハンガー

「衿拭き」の手順

衣装敷の上に着物を載せて、衿の部分を広げます。

4枚に折りたたんだタオルに、ベンジンをたっぷりとかけて濡らします。

衿の汚れている部分を上からタオルで擦ったら、まわりを軽く叩いて輪ジミが出来るのを防ぎます。

拭いた部分を振って、ベンジンを揮発させます。

汚れが落ちないようなら、タオルをキレイな面にひっくり返し、ベンジンでたっぷり濡らします。

今度は緯糸に沿って汚れている部分をタオルで擦り、まわりを叩いて輪ジミを防いだら、拭いた部分を振って揮発を促進させます。

汚れが落ちたらベンジンが完全に揮発するよう、着物ハンガーにかけて半日ほど風通しの良いところで乾かします。

「衿拭き」では落とせない汗汚れは「汗抜き」で予防を

暑い時期や人混みで長時間過ごしたあとに、気になるのが着物にしみ込んだ汗の汚れ。
とくに衿には汗が大量にしみ込んでいますが、乾いてしまうと目に見えないため、気づかないことも多いようです。

そんな着物の衿にしみ込んだ汗の汚れは水溶性のため、ベンジンでの「衿拭き」では落とし切れません。しかも、そのままにしていると、汗に含まれるミネラル成分などが繊維に残ってしまい、汗ジミや黒ずみの原因になってしまいます。

汗をかいたと感じた外出後は、汗ジミを防ぐための「汗抜き」もしておくとよいでしょう。

ただし、すでに汗ジミが出来ている場合には、すぐにクリーニングに出すことが大切です。
また、着物を保管する前にはクリーニングが欠かせませんが、このとき丸洗いに加えて、必ずプロの手での「汗抜き」もお願いしましょう。

着物の汗抜きはなぜ必要?丸洗いだけでは不十分な理由とは

着物の衿の黒ずみ・変色・黄変は専門店で相談を

着物の衿汚れは、時間が経つほど取れにくくなります。

例えば、黒ずんでいる部分には、皮脂汚れが積み重なって層のようになっています。
衿が白くなったり、薄いピンクになるなどの変色は、ファンデーションの成分によって、着物の繊維の染料が変質して、すでに色が抜けた状態です。

衿が黄ばんだり、焦げ茶のシミになっている場合は、汗に含まれるミネラルやタンパク質等が酸化して黄変を起こしている可能性も。

こうなると、「衿拭き」などの自宅でのお手入れは不可能です。それどころか、一般的なクリーニング店では対処が難しいことも。

きものトトノエのような着物専門のクリーニング店で、シミ抜きや黄変抜き、染色補正など、熟練の職人技で対処してもらうことが必要です。

まとめ

普段着やしゃれ着などのよく着る着物の衿汚れは、「衿拭き」で対処することができますが、あくまでこれは応急処置でしかありません。

シーズンが終わって着物を保管する前には、必ずクリーニングに出して丸洗いや汗抜き、染み抜きなどを済ませてから収納しましょう。

また、黒ずみや黄ばみ、変色などを見つけたら、自分で落とそうとせず、早めに着物専門のクリーニング店に出すことをオススメします。