着物の染み抜きって自宅ではできないの?という声をよく耳にします。
結論からいうと着物の染み抜きを自宅で行う場合には、まずは正しいシミへの対処法を知ることが必要です。
大切な着物をダメにしてしまわないように、今回は着物のシミ抜きの自宅でできる基本的な方法や、
クリーニングに出す場合のシミ抜き料金・店舗選びの注意点など、正しい着物の染み抜き方法5つのポイントを解説します。
目次
振袖・着物のシミ抜きでは「原因特定」が大切!
振袖等の着物シミ抜きでは、まずシミの「原因」を特定してから作業することが重要です。
着物のシミは、大きく分けて以下のような3種類に分類できます。
【着物のシミの種類】
・水溶性のシミ:主にジュース等の飲み物のシミや醤油等のシミです。水に溶ける特性を持っています。
・油溶性のシミ:マヨネーズや口紅等のメイクによるシミが代表的です。油には溶けますが水には溶けません。
・不溶性のシミ:泥汚れ・顔料インク等が代表的です。水にも油にも溶けません。
例えば「油溶性」のシミのある箇所に水分を含ませても、汚れが水を弾くためシミはほとんど取れません。
ひどい場合にはシミが余計に広がってしまったり、取れにくいシミへと悪化することもあります。
自分で着物のシミ抜き等の対処をする場合には、「何によるシミか」がわかる場合だけにしましょう。
振袖等についたシミの原因がわからない場合には無理に自分で作業せず、専門店に依頼した方が無難です。
紅茶・ジュース…着物の水溶性シミの染み抜き方法は?
着物についた水溶性のシミには、以下のようなシミ抜き方法があります。
【準備するもの】
・ぬるま湯
・タオル3枚以上(白か色が薄いもの、柔らかいもの、汚れても良いもの)
・洗面器かボウル
・綿棒
・ガーゼ
・きもの専用ハンガー
※作業に入る前に必ず注意点をよく読みましょう。
【着物のシミ抜きの手順】
1)着物を広げ、シミがある部分の裏側にタオルを敷いておきます。
2)洗面器等にぬるま湯(40℃以下)を張り、別のタオル(もしくはガーゼ)を浸して固く絞ります。
3)シミの部分を軽くトントンと叩いて、汚れをタオルに移していきます。シミが小さい場合には、作業を綿棒で行います。
4)乾いたタオルでさらに布地を軽く叩き、水分をよく吸い取ります。
5)きもの専用ハンガーに着物をかけて、半日~1日以上干して水分を飛ばします。
【作業の注意点】
・着物の生地・染色方法によっては、洗剤を使うことで色落ち・変色が起きるケースがあります。必ず着物の裏側等の目立たない部分で事前にテストを行いましょう。
・振袖等に使われる正絹(シルク素材)は、水分を多量に含むと縮んでしまい形が崩れてしまいます。水分を多く含ませすぎたり、濡らすことは厳禁です。
・タオルで生地をつよくこすってはいけません。毛羽立ちの原因になります。
・金箔・銀箔・刺繍等がある部分にはシミ抜きができません。
食事ハネやメイク…振袖の油溶性のシミの染み抜き方法は?
マヨネーズやステーキソースといった食事のシミ、また口紅等に代表されるメイクのシミの多くは油溶性です。このような油溶性のシミは水では溶かせないので、「ベンジン」という溶剤を使います。
【準備するもの】
・ベンジン(クリーニング専用のもの)
・ガーゼ2枚以上(薄手のタオルでも代用可、ただし白色のもの)
・タオル2枚以上(汚れてもよいもの、色が薄いもの)
・ゴム手袋
・メガネ・ゴーグル
・マスク
・きもの専用ハンガー
※作業前に必ず注意点を読みましょう。
【着物のシミ抜きの手順】
1)着物を広げ、シミがある部分の裏側にタオルを敷いておきます。
2)ガーゼにベンジンを染み込ませます。
3)ガーゼでシミがある部分をトントンと叩き、シミを溶かして汚れを移していきます。
4)常にガーゼのキレイな面が着物の生地にあたるようにガーゼを動かします。
5)シミが目立たなくなったら、新しいガーゼにベンジンを再度含ませます。
6)濡れたように見える部分の輪郭(りんかく)をキレイなガーゼで叩いて、輪郭をぼかしていきます。
7)着物を専用のハンガーにかけて形を整え、よく乾かします。
【作業の注意点】
・ベンジンは非常に強い溶剤です。染色・生地によっては変色が起きることがあります。着物のシミ抜き作業の前に、必ず裏面等の目立たない場所で色落ちテストをしてください。
・ベンジンで強く着物をこすると「色落ち(色抜け)」が起きます。早く着物のシミを落とそうと焦らず、ゆっくり優しく作業をしましょう。
・輪郭をぼかす作業はていねいに行いましょう。クッキリと輪郭が濡れた状態で乾かすと「輪ジミ」が残って取れなくなります。
・ベンジンは空気中に飛散して有害な成分を出します。作業中は必ず窓を開けて、よく換気しましょう。
・ベンジンは引火性です。作業中にはストーブ、コンロ、マッチ、ライター、給湯器といった火器類を絶対に使わないでください。火事・爆発等の原因となります。
・ベンジンを使用する際には、マスクや手袋・メガネ等で皮膚・粘膜を保護しましょう。
振袖の大きなシミや古い汚れ…自分で染み抜きは難しい?
振袖や着物についた小さなシミや軽いシミなら、上記の「2」「3」でご紹介した方法である程度対処できます。
しかしシミが以下のようなものの場合、自分で振袖等のシミ抜きを行うのはかなり難しくなります。
【自分での着物のシミ抜きが難しいケース例】
・シミが付いてから時間が経っている場合
・いつ付いたかわからない古いシミ
・直径が3センチ以上ある大きなシミ
・赤ワイン等の色素が濃いシミ
・水溶性・油溶性のシミが混じっている場合
・シミが何箇所にも散らばっている場合
・顔料や泥等の不溶性のシミの場合
・血液のシミ 等
着物に付いた汚れは、時間が経てば経つほど繊維に強く絡みついて取れなくなっていきます。
またシミが大きかったりシミの数が増えるほど、たくさんの溶剤や洗剤が必要です。
その分、シミ抜き作業に失敗したり、着物の生地を傷める可能性が高くなります。
上記のような場合には、無理に自分で着物のシミ抜きをすることはおすすめできません。
またベンジン等の扱いに不安がある場合も同様です。
「生地が縮んだ」「変色した」・・・自宅でのシミ抜き作業で失敗した後にクリーニング店に依頼をしても、着物が元に戻らないこともあるのです。
振袖のシミ抜きの料金は?クリーニングに出す時の注意点は?
振袖等の着物のシミ抜きをクリーニング店に依頼する場合には、以下の点に注意しましょう。
「シミ抜き」を相談できる店舗を選ぼう
いわゆる「着物丸洗い(ドライクリーニング)」だけだと、着物のシミを落とせないケースが多々あります。
特にコーヒー・紅茶等の水溶性シミや大きなシミは丸洗いだけでは分解できず、汚れが残る可能性が高いです。
一般的なクリーニング店でも「きものクリーニング」を受け付ける店舗はありますが、他の工場や業者に依頼をしていることがほとんど。
そのため「丸洗いしか受け付けない」「カウンターではスタッフが詳しいことがわからない」というケースが少なくありません。
シミがある着物を出す場合には、「シミ抜き」等の追加メニューがきちんとある専門店を利用した方が良いでしょう。
シミ抜き料金の値段は?見積もりを出す店舗選びも大切
着物・振袖のシミ抜きの料金値段は、シミの程度・状態によっても変動します。以下のような条件で、シミ取り作業の手間が大きく変わってくるためです。
【シミ抜き料金の変動条件】
・シミの大きさ(直径1センチ毎に変動する場合もある)
・シミの変色があるか(湿気による変色等)
・シミのある箇所(刺繍等にシミが付いていないか等)
・シミの数
そのため「着物丸洗い」とは異なり、「シミ抜き料金の値段は数千円くらいです」といった一般的な料金相場の特定をするのは難しいところ。その分、シミ抜き作業に入る前に「料金の見積もり」をきちんと出してくれる店舗を選ぶことが大切です。
店舗によっては連絡もせずにシミ抜き作業をしてしまい、作業後に顧客が料金を請求されるケースも見られます。クリーニング店舗を選ぶ際には、事前にきちんと見積を出して、了承を得てから作業をしてくれるかどうかを確認しておくと安心です。
おわりに
振袖等の着物のシミ抜き方法や、シミ抜きを専門店に依頼する場合の注意点はいかがでしたか?
着物・振袖のシミで大切なのは、何よりも「早く対処をする」ということ。
「薄いシミだから」「小さいシミだから」と放置すると、変色して取れなくなることも…。
早め早めに対処をしましょう!