「着物をチェックしたら、袖口に汚れがたくさんあってビックリ!」こんな経験がある人は意外と多いようです。着物の袖口は、汚れやシミを無意識に付けやすい箇所。汚れに気づいたら、早めにキレイにしておきましょう。
今回は着物の袖口の汚れ・シミを自宅でシミ抜きする方法や、クリーニングに出す場合のオーダー方法、また汚れを防ぐ対策について解説していきます。
目次
あなたのシミはどれ?袖口汚れの3つの原因
着物の袖口汚れをキレイにするには、まずその汚れの原因を特定することが大切です。袖口に付きやすい汚れは、大きく分けて3種類あります。
袖口に付きやすい「皮脂」の汚れ
着物の袖口に付く汚れの原因・第一位は「皮脂」の汚れです。なぜ袖口には皮脂汚れが付きやすいのか?というと、手首は「着物と肌が直接触れ合う場所」だから…ということになります。
着物の下には長襦袢(ながじゅばん)を着るので、体の皮膚と着物が直接触れることはほぼありません。ところが長襦袢の袖は、着物の袖よりは短め。このせいで手首と着物の袖口の裏はこすれあい、皮脂汚れが付いてしまうのです。
皮脂汚れの特徴
・袖口の裏側に付きやすい
・時間が経過すると黒ずんでくる
・縦スジのようなシミになりやすい
意外と多い「食べ物・飲み物」のハネ
洋服で食べ物や飲み物のハネが飛ぶ場所というと、胸元等をイメージする人が多いはず。ところが袖が大きな着物の場合、食べ物・飲み物のハネが袖口の表や裏に飛んでいることがあります。
食べ物・飲み物のシミの特徴
・油系のシミの場合にはシミがテカりやすい
・新しいシミだと臭いが残っていることが多い
・袖の外側に比較的付きやすい
なお食べ物シミ・飲み物のハネは、油分を含むかどうか(油溶性か水溶性か)で着物の袖口汚れを落とす対処法が変わります。
油溶性のシミの例
・マヨネーズ
・肉汁、ステーキソース
・ドレッシング 等
水溶性のシミの例
・ワイン
・コーヒー
・紅茶
・醤油 等
着用した日の食事内容等を思い出しながら、何によるシミなのかを特定していくことが大切です。
「雨・水」による水シミ・輪ジミのことも
デリケートな着物の素材は、ほんの少しの「水濡れ」でシミになることもあります。例えば傘を持った際に付着した雨の水滴、手洗いの際に飛んだ水等がシミの元になるのです。
特に正絹(シルク)等の水濡れに弱い素材は、水滴が付いただけでその部分が収縮し、シミになったように色が変わって見えることがあります。また水濡れで表面の染料やホコリが流れ出し、輪ジミのようになることも。雨・雪の日の着用等では特に起こりやすいシミです。
水シミ・輪ジミの特徴
・水がハネた箇所だけ色の深みが変わって見える
・輪郭(りんかく)部分だけ滲んだように見える
・正絹(シルク)・ウール製品で起こりやすい
・天然染色製品(草木染め等)で起こりやすい
着物の袖口の汚れを取るシミ抜き方法は?
付いてしまった着物の袖口の汚れ、自宅でケアすることはできるのでしょうか?汚れの原因に合わせたお手入れ方法をご紹介します。
軽い皮脂汚れや油汚れは「ベンジン」でケア
付いたばかりの皮脂汚れや、ステーキソース・マヨネーズ等のハネ・シミは、水では分解できない油溶性の汚れです。この汚れは「ベンジン」という揮発性の高い溶剤を使うと分解できます。
用意するもの
・ベンジン:薬局やドラッストアで購入できます
・ガーゼ:白くキレイな状態のものを数枚
・タオル:汚れても大丈夫な白いタイプのもの
・ハンガー:着物専用のもの
着物の袖口汚れを落とす手順
※注意点まですべて読んでから作業に入りましょう。
1)タオルを敷いて、その上に着物の袖口部分を広げておきます。
2)ガーゼにベンジンを少し染み込ませて、袖口の汚れがある部分を軽く叩きます。
3)常にガーゼのキレイな部分をあてるように細かく動かし、汚れを移し替えます。
4)汚れが目立たなくなったら、別のガーゼにもう一度ベンジンを染み込ませて、輪郭(りんかく)をボカすように叩いていきます。
5)着物用ハンガーに着物をかけて、よく乾かします。
注意点
※強くこすると色落ち・毛羽立ちが起こり元に戻らなくなります。摩擦させず、ポンポンと軽く叩くように作業しましょう。
※素材や染色によっては変色・色落ちが起きます。事前に目立たない箇所でテストを行いましょう。
※作業中は火気厳禁です。またベンジンは気化性の溶剤なので、必ず換気をして作業してください。
※ボカしの作業が不十分だったり、ベンジンを付けすぎると、輪ジミができることがあります。その場合は自宅で元に戻せません。作業は自己責任で行い、万一輪ジミができた場合には早めに専門店に相談しましょう。
水溶性の汚れには中性洗剤を
コーヒーや紅茶等、油分をほぼ含まない水溶性のシミは、中性洗剤を使ってシミ抜きをします。
用意するもの
・中性洗剤(液体タイプ):蛍光剤不使用のもの
・ガーゼ:数枚
・タオル:2~3枚、汚れても良いもの
・洗面器等の容器
・ハンガー:着物専用のもの
着物の袖口汚れを落とす手順
※必ず注意点まですべて読んでから作業をしましょう。
1)洗面器にぬるま湯を少量入れて中性洗剤を数滴たらし、薄めの溶液を作ります。
2)タオルを敷いて、上に着物の袖口を広げます。
3)最初に作った溶液にガーゼを浸して固くしっかりと絞ります。
4)ガーゼで汚れがある部分をトントンと軽く叩きます。
5)汚れが目立たなくなったら、別のガーゼにぬるま湯を含ませて固く絞り、さらにトントンと軽く叩いて洗剤の成分を取ります。
6)乾いたタオルで濡れた部分をよく叩き、水分を取ります。
7)着物用のハンガーに着物をかけて、よく乾かします。
注意点
※正絹(シルク)やウール等の水濡れに特に弱い素材の製品には、この方法はおすすめできません。濡れたことによって縮みや輪ジミ、素材の変質が起こる可能性があります
※金糸・銀糸・金箔・銀箔・刺繍(ししゅう)等、特殊な加工がある箇所には上の方法は使わないでください。変色・箔の剥がれ等が起きる原因になります。
※染色方法によっては、中性洗剤でも色落ち・変色が起きます。必ず裏地等の目立たない箇所でテストを事前に行いましょう。
自宅ケアができない着物の袖口汚れもある?
着物の袖口の汚れ・シミが以下のような状態の場合、残念ながら自宅でのシミ抜きで着物をキレイにするのは難しいです。
・原因がわからないシミ
・直径3センチ以上の大きなシミ
・いつ付いたのかわからない古いシミ
・黒ずみがハッキリ見えるほど古く変色した皮脂汚れ
・赤ワイン・ぶどうジュース等の色素が多いシミ
・水濡れによる水シミ
この場合には無理に自宅でシミ抜き作業をしない方が無難。早めに専門店に相談をしましょう。
袖口汚れをクリーニングでスッキリ!オーダーの方法は?
着物の袖口の汚れをクリーニングで取ってもらう場合には、着物専門のクリーニング店、もしくは和装に対応していることを明記したお店に依頼をしましょう。またクリーニングのメニューは、シミの状態等に合わせて適切に選ぶことが大切です。
軽い皮脂汚れなら「着物丸洗い」でキレイに
付いてから時間が経っていない皮脂汚れや、ごく小さな食べ物の油ハネ程度であれば、着物丸洗い(ドライクリーニング)で汚れを落とせます。長期保管前や数回着た着物なら、丸洗いをして袖口汚れもまとめて一緒にキレイにしておくのが良いでしょう。
またクリーニング店によっては、着物の袖口の皮脂汚れだけをピンポイントでアフターケアする店舗もあります。
黒ずみ汚れや水性汚れ・水シミは「シミ抜き」で
時間が経って黒ずんだ袖口の汚れや、ワイン等の水溶性のシミ、水シミについては「シミ抜き」をオーダーしましょう。それぞれの原因に合わせて、部分的な漂白等の専門的な対処を行ってもらえます。
着物の袖口汚れを予防する3つの対策
袖口は着物の中でもかなり汚れやすい箇所です。汚れをできるだけ付けないように、予防の対策も知っておきましょう。
撥水スプレーで汚れと水シミ防止
着物専用の撥水スプレー(汚れ防止スプレー)を袖口にかけておくと、皮脂汚れ・水シミ等が付くのを防いでくれます。ただし素材によってはスプレーが使えない着物もありますので、製品の注意書きをよく読んで使用してください。
手洗いの時にはクリップを!
着物を着慣れない人や七五三等で小さなお子様が着物を着る場合、トイレ等で手を洗う際に水ハネを作ることが多いです。袖が下がって来ないように、両袖を止めるクリップを用意しておきましょう。
着用ごとにベンジンで皮脂落とし
皮脂の汚れは、時間が経過するほど落としにくくなっていきます。反対に付いた直後であれば、短時間のお手入れでも比較的カンタンに汚れを落とすことが可能です。
お着物をよく着る人であれば、1回着物を着るごとに袖口裏をベンジンでお手入れする習慣を付けておくと良いでしょう。ただ上でご紹介した「ベンジン」でのお手入れにはコツと慣れも必要です。普段着着物や洋服等から練習していくことをおすすめします。
おわりに
着物の袖口の汚れを落とす方法や予防対策はいかがでしたか?袖口汚れは時間が経つほどにやっかいなシミになっていきます。放置するほど後のクリーニング料金が高くなったり、最悪の場合には専門店でも汚れが落とせない…ということも。
「小さなシミだから」「あまり見えない場所だから」と油断せず、気づいた時に早めに対策を取ることが大切です。