着物にできた古いシミは、クリーニング店の染み抜きでも落ちないことが……。そんなとき、着物の古いシミをカバーしてくれるのが「染め直し」という方法です。言葉の通り着物を染め直すことですが、実は「染め直し」にはさまざまな技術があります。そこで、染め直しがオススメの着物についた古いシミのタイプと、染め直しの種類を紹介します。

落ちない着物のシミをカバーする「染め直し」

着物のシミが古い場合、クリーニング店のシミ抜きでは落としきれないことがあります。また、無理に落とそうとすると生地が傷んでしまう可能性も。

そんなシミをカバーする方法に「染め直し」があります。

「染め直し」とは言葉の通り、着物を染め直して地色や柄の色を変えることで、着物を再生する技術のこと。シミが落ちないせいで二度と着られないと思っていた着物も、異なる印象の着物に生まれ変わらせることが出来ます。

また、自分ではもう着ることのない昔の着物も染め直しをすることで、祖母から母へ、母から娘へと、譲ることが出来るようになります。

「染め直し」がオススメの着物のシミの種類

では、染め直しはどんなシミをカバーしてくれるのでしょうか?

黄変による変色したシミ

着物に含まれた汗や皮脂の影響で、着物が変色した状態を黄変といいます。薄い地色の着物だと、黄色や茶色、もしくは褐色のようなシミになります。

色の濃い地色だと、薄い黄色に変色するため色が抜けて見えたり、紫色に変色することも。長い時間そのままになっていた古い黄変は、着物が傷むくらいの強い漂白をしなければならないため、染み抜きよりも染め直しがおすすめです。

シミが多い、シミの範囲が広い

何年も着ないまま保管していた着物は、気がついたときにはシミの数が増えていたり、シミが広がっている場合も。

こうなると、すべてのシミを完全に取るのは難しく、無理に染み抜きをすると着物の生地が傷んでしまうことに。そんな場合にも、染め直しが有効です。

着物の色が自分の年齢に合わない

若い頃はお気に入りだった着物。「今の自分には色が似合わない」「ハデな着物だからもう着ないかも」と、シミがあるのを知りつつも、タンスの中に放置している方が多いようです。

そんな着物こそ、地色を落ち着いた色に「染め直し」することをオススメします。最近の流行や今の年齢に合った色に染め直せば、もう一度、愛用することができます。

長期間の保管で色褪せた場合にも

まったく着ていない着物でも、長期にわたって保管している間に色褪せしてしまうことがあります。とくに緑色や紫色の着物は色褪せを起こしやすいといわれています。

しかも、たたんであった端の部分だけなど一部が色褪せるケースがほとんどのため、正確にはシミでありませんが、シミがあるように見えてしまいます。
こんな場合にも染め直しが役立ちます。

着物の染め直しの方法と種類

着物のシミをカバーできる「染め直し」ですが、「染め替え」とも呼ばれ、着物を解いて反物の状態に戻し、洗い張りで汚れを落としてから、全体的に染め直しを行います。

反物の状態を最後に着物へと仕立て直すため、現在の自分の体型に合わせたり、着物を譲る相手のサイズに合わせて調整することができるのも特徴です。

そんな染め直しには、さまざまな方法があります。

シンプルに染める「色揚げ」

色揚げは元の色は抜かずに、そのまま上から同系色の濃い色、もしくは暗い色をかけて染める方法です。着物に柄がある場合は柄の上から色をかけるので、柄の色合いも変わります。

シンプルな染め直しの方法なので、料金が比較的安いのも魅力です。

脱色してから色付する「抜染め」

抜染めは、着物を脱色してから他の色に染める方法。

ただし、シミの状態によっては、抜染めによる染め直しではシミが隠せないことも。脱色から再染色と工程が多いため、色揚げよりは染め直しの料金は高くなります。

柄は活かして染める「柄染め」

柄染めは着物の柄の部分は染めずに、地色だけを染め直す方法です。柄の部分には糊などをかけて染色を防ぎます。

柄の部分には着物のシミが無く、柄を活かしたい場合の染め直しの方法です。
地色を濃い色にすることで、柄がより華やかに引き立つメリットもあります。

落ち着いた色に補正する「目引き」

目引きとは着物全体に色を加えて、落ち着いた色合いにする染色補正の方法です。柄染めとは違い、柄の部分にも濃い色をかけるため、全体的に暗い色合いになります。

着物のシミをカバーするのには向いていて、年齢に合わせて着物の色合いを変えたい場合にも向いています。

柄を加えてカバーする「柄付け」

着物に新たに絵柄や模様を付け足す方法が柄付けです。地色には染色補正を行わずに、柄の部分だけで対応します。

落としきれない着物のシミが小さい場合や、柄のまわりにシミがある場合に向いた染め直しの方法ですが、色無地や留袖、訪問着などの無地の部分のシミには対応できません。

着物の素材や加工によっては染め直し出来ないものも

使われている素材や加工方法によっては、着物全体もしくは着物の一部が染め直しできない場合があります。
例えば、刺繍部分にシミが出来てしまうと、染め直しではカバーするのが難しくなります。

染め直しが難しい素材や加工の一例

・ポリエステル
・綿、麻
・羽二重
・金糸・銀糸
・金箔・銀箔
・刺繍
・皮革
・胡粉(ごふん:貝殻を使った白色顔料)
・螺鈿(らでん:貝を使った細工)
・ガラス玉
・スパンコール

これらは染め直しが難しいことも覚えておくとよいでしょう。

まとめ

着物の古いシミも「染め直し」ならカバーできる可能性があります。

地色を染め替えることで、それまでとは異なった印象の着物へと再生できます。
シミが小さい場合なら、柄を加えてカバーする柄付けだけでシミをカバーできるケースも。

まずは染め直しができるか、プロに判断してもらうことが大切。古いシミだからと勝手に諦めてしまう前に、クリーニング店や悉皆屋さんなどに相談してみてはいかがでしょうか。