着物の虫干しとは、年に2~3回は必ず行って欲しい着物のお手入れ方法のこと。着物を虫干しすることで、湿気から来るカビや害虫などから着物を守ることができます。
そんな虫干しを行うメリットや、いつ、どこで、どう行えばいいのかなど、着物の虫干しの詳しいやり方と注意したいポイントを紹介します。
目次
着物の虫干しとは?
着物のお手入れ方法のひとつである「虫干し」。
年に数回、定期的に保管している着物を取り出し、直射日光に当たらない場所に干して乾燥させるお手入れのことで、「着物の繊維にこもってしまった湿気を飛ばす」ことが目的です。
着物を干して水分を飛ばすことで、繊維に害虫がつかないようにする防虫のためのお手入れであることから「虫干し」と名付けられました。
着物を着用したあとのお手入れとして、着物にしみこんだ汗を飛ばすために「陰干し」することはご存じの方も多いと思いますが、こちらは言葉の通り、直射日光にあてないように日陰で干すことを意味します。
着物だけでなく、洋服や布団なども直射日光に当たらないように干せば、それはすべて「陰干し」となります。
この「虫干し」と「陰干し」の二つを混同しがちですが、「虫干し」は定期的に行われる着物のお手入れのこと、「陰干し」は実際に着物を干す場合の干し方のことであり、「虫干し」の時に行われる干し方も日陰に干す「陰干し」のため、紛らわしくなりがちのようです。
着物の虫干しを行うメリットとは?
保管している着物をわざわざ出さなければならないため、ちょっと面倒だと感じる方も多い虫干しですが、どうして必要なのでしょうか。
また、虫干しを行うことにどんなメリットがあるのでしょうか。
着物の虫食いを防ぐ
着物を虫干しするメリットのひとつは、虫食いの予防です。
着物の素材は絹やウールなどの動物性繊維が多く、繊維を食べる虫がつきやすくなります。そのため虫食い対策をせずに着物を保管していると、虫が産みつけた幼虫に繊維を食べられてしまい、気がついた時には着物が虫食いだらけ……ということも。
繊維につく虫は湿気が多くて温かい場所を好みますから、着物の虫干しを定期的に行い、繊維の中までしっかり乾燥させることで、着物を虫食いから防ぐことが可能になります。
着物へのカビの発生を防ぐ
着物のトラブルとして多いのが、保管中に発生するカビ。カビ菌が着物に発生するとカビ臭くなるだけでなく、シミや汚れ、変色による黄変などの原因となります。
カビ菌が好むのは湿った繊維の中。湿度60〜80%、気温20〜30度くらいになると、カビが発生しやすくなるのですが、高温多湿の日本では長期間タンスや衣装ケースにしまいこんだままにしているだけで着物に湿気がたまるため、さらにカビ菌が発生しやすくなります。
また、着物のカビは一度発生させてしまうと自分で落とすことはできないため、カビを発生させないように、定期的に風を通して湿気を取ることが何より大切なのです。
着物のニオイを取る
着物の繊維の中にこもった空気が入れ替わることで、着物についてしまったニオイを消臭することが出来ます。虫干しすることで、着物のカビ臭いニオイを一時的に目立たなくさせることも。
ただしカビ臭さはカビ菌を除去しないと完全には解決できないため、早めにクリーニングに出すなど着物のプロにお手入れをお願いしましょう。
着物のトラブルを確認できる
着物の虫干しを行う時には着物を広げますから、着物の状態をしっかりチェックすることができます。
保管する時には気づかなかったシミや汚れなどを見つけることが出来るかもしれません。
また保管中にシミができたり、変色を起こしている可能性も。そんな着物のトラブルを早めに発見することで、シミや汚れが落としやすいうちにクリーニングに出すことができます。
着物の虫干しに最適な回数とタイミング
そんな様々なトラブルを防ぐため、着物の保管中には、定期的に虫干しを行うことが大切です。
虫干しの回数は年2~3回を目安に
虫干しをするなら、年に3回程度行うのが基本といわれています。
とはいえ、着物を着る機会が少なく、仕事に家事、育児にと忙しい方が多い現代では、年2回ほど虫干しできれば問題はありません。
虫干しは湿気の少ない時期が最適
着物の虫干しをするなら、以下の時期が目安となります。
・冬の場合:冬晴れの続く2月頃
・夏の場合:梅雨明け後7月下旬~8月上旬頃
・秋の場合:秋晴れの続く11月頃
ただし夏の場合、台風前後は湿度が上がるため、虫干しはNG。
また、地域によって気候や天候が異なるうえ、最近は異常気象の影響で気候の変動を予測することが難しいため、必ず上記の時期に行わなければいけないわけではありません。
湿度が40〜60%、気温20度以下の環境が理想的ですが、「雨が少なくて湿度が低い」「空気が乾燥している」「2~3日晴天が続いている」時に行うことを心がけるといいでしょう。
虫干しを行う時間は10~15時に
虫干しを行う時間帯は布団を干すのと同じで、一日のうちでもっとも空気が乾燥しやすく、気温も高くなる10時から15時までがベストタイムといわれています。
反対に朝方や夕方以降は湿度が上がってしまいがち。できるだけ15時頃から取り込みはじめて、その日のうちに着物をしまうようにしましょう。
着物を虫干しするための準備
実際に着物の虫干しをするために、どんな準備が必要なのでしょうか。
虫干しに必要なものを用意する
・着物用ハンガー
着物専用のハンガーを使用すると、型崩れの心配がありません。
4~5時間程度の短い虫干しであれば、肩の形がつかないタイプの洋服用ハンガーを使ってもいいでしょう。
・着物用ブラシまたはガーゼのハンカチ
着物のチリやホコリを取るのに着物専用のブラシを使用します。ない場合には、清潔なガーゼのハンカチなどでも代用可能。色移りの心配が無い白色のものを使用しましょう。
・新しいたとう紙
虫干しはたとう紙を交換するチャンス。
たとう紙はチリやホコリから着物を守り、湿気を吸いこむことで着物をカビ、虫などから予防する役割を持っています。
そのため、黄ばんでいたり茶色いシミが出ている、3年以上交換していない場合には、新しいものと交換することをオススメします。
・扇風機
室内で虫干しをする場合、室内の湿度調節が理想的にはいかないことも。そんな時には扇風機などで室内の空気を循環させて、着物が乾燥しやすい環境を作りましょう。
虫干しする場所を決める
虫干しは着物をハンガーなどにかけて広げ、空気を通すため、どこに着物をかけるかを先に決めておいたほうがよいでしょう。
屋内の場合
和室の場合なら鴨居やふすまの梁を使って、ハンガーをかけることができます。
梁のない洋室の場合、クローゼットのドアやタンスの引き出しを使ってハンガーをかける方法も。
実際にかける前に、着物の裾が床につかないか、高さが十分あるかを確認しておきましょう。
また室内であっても、窓を通して直射日光が当たることも。そういう場所はNGですので注意が必要です。
蛍光灯の明かりで着物が色やけしてしまう可能性もあるので、虫干ししている間は照明を点けるのも避けて。一日中日陰になる、風通しの良い場所を選びましょう。
屋外の場合
直射日光の当たらない日陰で風通しの良い場所であれば、庭でもベランダでも大丈夫。
ただし、時間によって日の当たる場所は変化していきますから、日射しの動きも確認しておきましょう。
ハンガーを掛けるときには、着物の裾が地面につかないかを確認。物干しに着物を直接かけた方が高い位置に掛けられるので、物干しを利用するのもひとつの方法です。
天気予報を確認する
虫干しの日程を決める場合には、事前に天気予報の週間天気などを確認しておくと予定を立てやすいでしょう。
虫干しを行う当日だけでなく、前後の数日間に晴天が続くかどうかも確認しておくと、湿度が低く空気が乾燥している日を選ぶことができます。
前日が雨だったり、ムシムシとした湿気の高い日が続く時期には虫干しは不向き。虫干し当日だけでなく、その前後の天気も必ず確認しましょう。
着物を虫干しする方法
準備が整ったら、実際に着物の虫干しを行う手順を紹介します。
1)着物を広げて、着物専用のハンガーにかけます。
2)着物をやさしくブラッシングして、チリやホコリを払います。
3)屋外もしくは室内で、直射日光のあたらない風通しの良い場所に干します。
4)室内に干す場合には、窓を開けて風を通します。
5)屋外の場合は3~4時間程度、室内の場合は丸一日程度は風にあてます。
6)着物を干している間にシミや変色、カビなどのトラブルがないかをチェック。
7)十分に着物を干したら、着物を取り込んで本畳みにします。
8)古いたとう紙を新しいものに交換して、タンスやケースに保管します。
着物の虫干しをする場合の注意点
着物を虫干しする際には、次の点に注意しましょう。
繰り返しになりますが、直射日光には絶対にあてないこと。
着物の素材や染色によっては、短時間でも日焼けによる色あせの原因になります。
着物を数多くお持ちの場合は、着物を掛けたハンガーの距離が近いと空気が通らず、虫干しの効果が半減してしまいます。一定の距離をあけて干しましょう。
また、一気にまとめて着物を干すのではなく、タンスの引き出しの着物を一段ずつ干すなど、着物の点数を調整しながら虫干しするといいでしょう。
着物にシミや虫食いを見つけたらクリーニングへ
虫干しのために着物を広げたら、シミや変色を発見した、虫食いにあっていた、ということもあるでしょう。
その場合には、すぐに着物専門のクリーニング店にお手入れをお願いしましょう。
きものトトノエのような着物専門のクリーニング店なら、熟練職人による匠診断で見つけ切れていないシミやカビなどもしっかりチェック。しみ抜きなどの最適なケアを施してくれます。
虫食い部分も状態によっては「かけはぎ(かけつぎ)」という方法で、修繕してもらえる可能性も。
着る予定がない着物だからとそのまましまってしまわずに、できるだけ早く専門店に相談することで、キレイな状態を長く維持することができます。
まとめ
着物の虫干しは、着物のシミや汚れ、変色、虫食いなどを予防するために、年2~3回程度行うのが理想です。
「雨が少なくて湿度が低い」「空気が乾燥している」「2~3日晴天が続いている」時に行うことをオススメします。
また、虫干しは着物のトラブルを早期発見する絶好の機会にもなります。少しでもシミや汚れ、カビや虫食いを見つけたら、早めに専門店に相談しましょう。
早めにケアすることで、カビや変色などのトラブルを解決できる可能性が高くなります。